Office Thelemitcs

STUDY

‹ 自由研究室

| 自由研究室 |
巨木・巨樹シリーズ/File No.5 「岩屋の大杉」
福井県勝山市

5人の子を育てた?
信仰と伝説が生まれた「子持ち杉」

岩屋の大杉の湾曲した枝ぶりと祠

信仰と伝説が生まれたその姿とは

観音堂の脇を通り過ぎ・・・「おぉ!」

ボディビルダーが両腕を振り上げて、上腕二頭筋を見せつけポージングしているかのような枝ぶり。いや、もはや枝などというものではなく、見事な幹ぶりとでも言いましょうか。
上の方はよく見えませんが、主幹は既に上部を失っているようで、その根元あたりから伸びた幹と化した大枝は5本。そのうち一本は手が届く高さまで一旦垂れ下がるように伸び、途中から急角度に湾曲して頭上高く空へと向かっています。

福井県勝山市の巨木「岩屋の大杉」JPS展2026入選作品
JPS展2026入選作品

あの太い幹のような大枝を5本も、よくもこんなふうに1本の木が支えているものだ、と驚嘆と感心が入り混じった感情が湧いてきます。
「子持ち杉」の5人の子たちは、数百年をかけて立派に逞しく育ったようです。

子安杉信仰と白竜伝説

この大杉にまつわる言い伝えはネット上でチラホラ目にはしていましたが、出どころが明らかではありません。曖昧な情報をここに掲載するのも気が引けたため、「岩屋の大杉(子持ち杉)」と「白竜伝説」について郷土資料などに記録がないか福井県立図書館に問い合わせしたところ、該当する図書名の回答をいただきました。それを元に国立国会図書館が提供するサービスを利用して実際に調べたところ…
勝山市が1974年に出版した「勝山市史 第1巻 風土と歴史」という書籍の中に、「岩屋(昭和40年頃に廃村となった岩屋集落(岩屋村))」について書かれた章があり、「伝説」として「子持ち杉と白竜」に関する記述をついに発見。

「子持ち杉と白竜」の内容は次のようなものです。
但し、この伝説がいつ頃から言い伝えられているかまでは分かりませんでした。

子持ち杉と白竜

 子持ち杉は神木である。株の広さは八畳敷、根の回り一五メートル、高さ四〇メートルもあり、観音堂の境内を覆っている。子安杉の信仰もあり、この杉の皮を煎じて飲めば乳の出がよくなるという。
 むかし、むらのふとどき者が、十二幹にわかれているうちの六本を切ったところ、白竜が現われて残りの六本に巻きつき、それ以上は切らせなかった。切った六本は材木商が買っていったが、年輪がばらばらに離れて使いものにならなかった。人は神罰のためだといった。
 白竜はそれから根元に住みついた。昭和四十二年、観音堂の屋根の修理を行なうとき、子持ち杉の根元に長さ三尺、頭と目がことさらに大きい白竜が現われた。

出典 「勝山市史 第1巻 風土と歴史」/出版年:1974年/出版者:勝山市/P642

それでは、順番に内容について見ていきたい思います。

 子持ち杉は神木である。株の広さは八畳敷、根の回り一五メートル、高さ四〇メートルもあり、観音堂の境内を覆っている。子安杉の信仰もあり、この杉の皮を煎じて飲めば乳の出がよくなるという。

まず冒頭の「子持ち杉」に関する部分では、子供を安らかに産み育てる「子安」のご利益がある神木として、信仰の対象にもなっていたことが分かります。そういえば、木の根元あたりに樹皮が削られたような跡がありました。

また、言い伝えによれば、大枝は12本あったようですが…
他の大枝はどこへいったのでしょう?

それについては、白竜伝説としてこのように書かれていました。

 むかし、むらのふとどき者が、十二幹にわかれているうちの六本を切ったところ、白竜が現われて残りの六本に巻きつき、それ以上は切らせなかった。切った六本は材木商が買っていったが、年輪がばらばらに離れて使いものにならなかった。人は神罰のためだといった。

この話からは、12本のうち白竜が守った6本が残ったわけですが、現在は5本。数の合わないもう一本は主幹を入れて6本とするのでしょうか。
そして「材」として「使いものにならなかった」という切られてしまった6本は、薪にでもされたのか気になるところですが、その後の行方は不明です。

今となっては12本あったという真偽のほどは分かりません。しかし「12」という数字に関して個人的な印象としては、例えば「1年=12ヶ月」や干支の十二支、その他にも仏教用語として「十二因縁/十二縁起」「十二上願/十二大願」「十二天(12の天神)」など数多く見られるので、単なる「数字」としてではなく、何か特別な意味(完全性や一巡りなど)が込められているような気もします。

また「白竜伝説」には、近年の後日談も添えられていました。

 白竜はそれから根元に住みついた。昭和四十二年、観音堂の屋根の修理を行なうとき、子持ち杉の根元に長さ三尺、頭と目がことさらに大きい白竜が現われた。

昭和に現れたという白竜は三尺(約90cm)とのことなので、想像する「竜」としては小ぶりで、実際には「蛇」だったのかもしれません。だとしても自然界でほぼ出会うことのない白蛇が、それも白竜伝説が言い伝えられる子持ち杉の根元に現れたということで、伝説はグッと真実味を増したに違いありません。ただ昭和四十二年ということなので、写真でもあれば良かったのですが。

いずれにしても、この強い生命力を感じさせる姿を見れば、伝説や信仰が生まれない方が不思議に思えます。5本の大枝が既に巨木化しているため「巨木を束ねる超樹」とでも呼べるでしょうか?
さて、5人の子供たちはどこまで育つのでしょう。

子持ち杉とも呼ばれる福井県勝山市の巨木「岩屋の大杉」
名 称 岩屋の大杉
読み方 いわやのおおすぎ
樹 種 スギ
樹 齢 約500年(伝承では1,200年とも)
所在地 福井県勝山市北郷町岩屋
指定等 市指定文化財 天然記念物
撮影日 2025.5.26
樹 形 ★★★☆☆
樹 勢 ★★★☆☆
異形度 ★★★★★
周囲の環境 ★★★★★
星の数ついて

星の数(☆☆☆☆☆)は、撮影者の主観的な印象または感想で、学術的、数値的裏付けなど客観的データに基づくものではありません。
また、星の数が、その木の価値や魅力を表すものではありません。
「周囲の環境」については、木そのものだけでなく、それがどんな周囲の環境に置かれているかも大事な要素と考え、(管理者の諸事情も察しますが)管理状況や立地条件、景観などを勘案し、星の数として表しています。

  • ★樹形
    整った樹形であるか、一般的な観点からの評価
  • ★樹勢
    見た目の木の元気さ
  • ★異形度
    自然環境、気象、天災、人災などの影響、または木本来の性質による、幹、枝の変形度合
  • ★周囲の環境
    管理状況、立地条件、景観など、木の周囲がどのような状況であったか

関連研究室

プライバシー・ポリシー