5 June 2025
| 自由研究室 |
巨木・巨樹シリーズ/File No.3 「兼六園の松」
兼六園の松

兼六園について
金沢の観光地として有名な「兼六園」。日本三名園のひとつで、他の2つに、岡山の「後楽園」、水戸の「偕楽園」があり、いずれも江戸時代に造られた回遊式の「大名庭園」と呼ばれるそうです。
兼六園のWebサイトを参考に、ざっとその歴史に触れておきます。
兼六園は、延宝4年(1676)、加賀藩5代藩主前田綱紀(つなのり)が別荘を建て、その周辺を庭園にして以来、歴代の藩主によって長い歳月をかけて整備されてきました。維新後、明治7年(1874)には一般市民に全面開放され、昭和60年(1985)には庭園の国宝ともいえる「特別名勝」に格上げされた、ということです。
兼六園を訪れるまでは、「日本庭園といえば、東京にも浜離宮や旧芝離宮、六義園もあるし、新宿御苑に行けば、日本庭園から洋風庭園、温室から森まで広大な公園を楽しめる・・・」と正直あまり期待はしていませんでした。
ところが実際に行ってみると、「特別名勝」というだけあって、「きれい」「よく整備されている」というだけではない、ワンランク上の品格を感じました。

徽軫灯籠(ことじとうろう)
兼六園のシンボルと言われる徽軫灯籠。片足だけを池の中に入れた二本足の灯籠で、前方にある虹橋を琴に見立てると、灯籠が琴の絃(いと)を支える駒に見えるので、徽軫(ことじ=琴柱)と名付けられたという。
その姿からはシンボルというよりマスコットのようにも思えてくる。
園内には、様々な見どころがあります。しかし、今回は「根上松(ねあがりまつ)」という根が土から2mも露出しているという有名な松を見ることを目的に来ていたので、庭園全体の景観というよりも、やはり「木」に目が行ってしまいます。
すると、ちょっと気がついたことがありました。
松がたくさんある、ということだけでなく、その樹形に様々なバリエーションが存在するということです。
姿は違えどクロマツとアカマツが多いらしく、場所や見方によって名前が付けられています。
「根上松」と、冬の風物詩として有名な雪吊りが施される「唐崎松(からさきのまつ)」はクロマツ。そして「唐崎松」と肩を並べるように、月見橋と月見灯籠の脇にはアカマツの「玩月松(がんげつのまつ)」があります。

月見灯籠と玩月松
上から下の土台まで、全ての石が丸いモチーフで統一された、こだわりの灯籠。
玩月松は支柱に支えられ池の中まで枝を伸ばしている。
「唐崎松」は、13代藩主斉泰(なりやす)が、近江・琵琶湖畔の唐崎から種子を取り寄せて育てたことからその名で呼ばれているそうです。
一方「玩月松」の玩月(がんげつ)とは、月見を意味し、月見橋は卯辰山(うたつやま)から昇る中秋の名月を眺めるために造られたとのことから、月見橋・月見灯籠・玩月松は、月見をより趣深く楽しむための舞台セットだったのだと思います。実際の月、灯籠の光、松の枝、そして池に映る月、水面にゆらめく灯籠の光と松の影。リアルに見えるものと水面に映る姿、街明かりの少ない江戸時代、そんな風情を楽しんだことが「玩月松」という名前の由来になっていると想像します。